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吼える月
第30章 予感
それがあまりにいじらしく、愛おしさを募らせたサクは、ユウナを抱きしめようとしたが、伸ばしたその手をユウナに触れる前に丸めて止め、代わりにぽんと軽くユウナの背中を叩いた。
「そんなはずねぇでしょうが。姫様置いていって、俺どうするっていうんですか」
「うん……そうよね。だけどよかった、サクがいてくれて、本当によかった……」
目に歓喜の透明な雫を溢れさせて、サクを見上げて微笑むユウナに、サクはこくりと唾を飲み込み、唇を微かに震わせた。
いつもなら躊躇なく、ユウナの肩を抱いたかもしれない。慰めのためではなく、ユウナと睦み合ったこともあるのだ。"治療"で身体を繋げもしたのだ。
黒陵にいた時よりも身体は近くなったというのに、必ずユウナを振り向かせると心に誓っていたのに、今は……、距離を縮めることを躊躇う自分がいることをサクは感じていた。
心に、簡単に踏み越えられない棘ができてしまっていたのだ。
それはひとえに…、ユウナの心の中に、リュカがいることをまた思い知らされたことに起因していた。
幾らユウナに愛されるように頑張ろうと思っても、リュカと婚姻が決まってからの、あの凄惨な日々を体感しているサクとしては、ユウナとリュカが運命の定めた伴侶で、これからその真実が明らかになるのを、自分はただ見ているしかないのだろうか、という怖れも、ちらちらと芽生えてしまったのだ。
……仕切り直さないといけない。
我武者羅に、ユウナにがっつきすぎたのかもしれない。
そんな反省点が、サクには残った。
愛を得られない苦痛をひきずったままでは、ユウナと同室で眠るのは辛すぎたため、猛ったままの自分を抑えるために、部屋の外の風通しがいいところで鍛錬に励んでいたのだが、そこでイルヒに遭遇した。
サクはイルヒをからかうことで気分転換をすることができ、結果イルヒは落込んで…ユウナが起きるまで扉に背をつけて、ふてくされていた…ということである。