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吼える月
第30章 予感
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朝餉は、蒼陵の男性陣が朝一番に海から引き揚げた…、蒼陵の民にとって一番のご馳走となる大きな赤い魚を、生で食べられないユウナのために、女性陣が料理に混ぜて門出を祝ってくれた。
イタチは目覚める気配はなく、ただ体温が下がっていないのが不幸中の幸いというところだが、いつ冷たくなってしまうかわからない。
そんな危機と背中合わせにいるイタチを、せめて寒い思いをさせないようにと、ユウナは再び首元に巻く。
尻尾を軽く引っ張ってみても、ぴくりとも動かない小動物。
青龍が降臨したギルが話しかけても、力を注いでも…動くことはなかった。
泣きそうになったユウナを、取り囲んだ子供達が彼女に代わって泣いた。子供達は、イタチが自分達を救った玄武だと信じ、早く目覚めるようにと祈り始めるのだった。
「緋陵までどういくつもりだ?」
中庭に向かって歩いていた時、横に並べば瓜二つの、武神将の兄とその弟が聞いた。
「俺、考えたんだ。あの大きな鳥達を使えば、高速で飛んでいけるし、お袋が確か緋陵には、結界を張ってるようなこと言ってたの思い出したから、そこまでは楽に入り込める……って、おい、なんでいねぇ!?」
サクは、昨夜まで庭で餌を食べていたはずの、たくさんの熊鷹が一羽もいないことに気づいて、目を見開いた。
そして、それまで熊鷹がいた場所には、戦いの直後にいなくなったはずのユエと、名前の知らない女が、神出鬼没にもまた姿を現わしている。
「お前らどうして……いやそれより、鳥見なかったか、鳥!」
するとユエは、愛くるしく笑った。
「きゃははははは、帰しちゃった!」
「帰した?」
「そう、鳥さん達のお仕事が終わったから、もう白陵の森に帰っていいよって。サクちゃんやユウナちゃんによろしくって言ってたよ」
「はああああ!? イタ公の一大事に、岩の国緋陵まで歩けって!? お前、帰す前になんで俺に相談しねぇんだよ!!」
「ふひぃぃぃぃっ、いらいいらい(痛い痛い)」
サクに頬を伸ばされて、ユエは両手をばたばたと暴れさせた。