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吼える月
第30章 予感
 

「お嬢様になにをする!」


 一瞬で間合いを詰め、喉もとに突きつけた小刀を、サクは仰け反るようにして躱した。


「お前こそなにをする、だ! あっぶねー」

「サクちゃん…鳥さん必要だったの?」

「ああ、とっても必要だったの!」


 するとユエは笑って、大木に向かって大きな声をかけた。


「よかったね、サクちゃん必要だったんだって」


 すると木の上から、大きな鳥がばさばさ翼を動かして降りて来る。 


 ぴぇぇぇぇぇ~。


「お前は……」

「猿、駄目だよ! このシワはあたいの鳥だ!」

「シワじゃねぇよ、皺模様がついた俺のワシだ!」


 言い争いを始めたふたり。イルヒを見て、ユエは大笑いし始める。


「きゃははははは! 凄いお顔、きゃははははは!!」

「なんだって!?」


 指をさされた上で笑われたイルヒが、ユエを睨み付け威嚇したが、それでたじろぐユエではなかった。……というより、怒りを向けられているとすら思っていないようだ。


「きゃはははは!! 面白いお顔~!!」

「黙れ! この~」


「黙るのは、お前達ふたりだ!」


 煩い子供ふたりの襟首を、サクは両手で掴んで宙に浮かせた。

 ……昔ハンが、幼いユウナとサクをそうしていたように。


「離せ、離せ猿! この失礼極まりない奴を……」

「きゃはははは~、ぶらーんぶらーん、ユエ、鳥さんになっちゃった」


 ふたりの少女の反応はまるで違ったが、サクは持ち上げたままイルヒに言った。


「そんなことより、お前の鳥ってなんだよ。このワシは俺とずっと戦った俺の鳥だぞ? ワシ、俺達は戦友だもんな!?」

 ぴぇぇぇぇぇ!!


「だけどさっき約束したんだ。あたいとテオンの恋文を運んでくれるって。優しい鳥なんだよね!?」

 ぴぇぇぇぇぇ!!


「お前、俺のために残ったんじゃなかったのか!? 二股かけたのか、お前!」


 ぴぇぇぇぇ~。

 鷹の声に元気がなくなった。
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