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吼える月
第30章 予感
そして――。
手を大きく振って、声を大きく出して。
気さくな蒼陵の民は、青龍殿から三人が見えなくなるまで三人を見送った。
ユウナは、薄れる集団の影が幻のように消えてしまう…そんな儚さを感じて、なにか胸騒ぎを感じていた。
ジウと青龍がいるのだ。またサクもシバも戻るのだ。
そう簡単に、蒼陵は滅びはしない。
そう思えども、なにか予感がするのだ。
二度と、あのたくさんの笑顔を見れない気が。
考えすぎだと、ユウナは自嘲気に笑った。
死に行く者がたくさんいたから、神経質になっているだけだ。
……同じことをサクが思っているとは知らず。
「あ、シバみっけ!」
イルヒの声が響く。
船着き場にある木に、シバは腕を組んで背を凭れさせて立っていた。
横に立てかけているのは、ジウの青龍刀――。
シバが静かに顔を上げる。
さらりとした青い髪が、陽光に煌めいた。
「シバ――っ!!」
駆け寄るイルヒの顔を見て、シバの冷ややかな美しい顔が複雑そうに歪んでいくのを見て、ユウナはからからと笑った。
「シバ、なんであたいの顔を見ないんだよ、なんでそっぽ向いちゃうんだよ! お別れにここまで見送りに来たんだよ!?」
ぴぇぇぇぇぇぇ!!
「ほら、シワも言ってるし!!」
「シワじゃねぇよ、ワシだ、ワシ!」
困ったように細められたシバの目は、その後ろに立っているサクを捕らえた。シバは不機嫌そうに、ぶっきらぼうに言う。
「……なんだ、そのにやけた顔は。なに考えてる」
「ああ、大したことじゃねぇ。お前がここでひたすら俺達を待っていたのが、親を待つか弱い子供のように、なんて健気でいじらしいんだろうと……」
「……帰る」
本当に帰ろうと踵を返したシバに、サクはその腕をひっぱり、
「いいから、乗れ!」
軽くシバの胸を叩いて笑えば、シバも睨み付けるような目を寄越しながらも、口元に笑みを浮かべた。
多くを語らずともいい……それがふたりの関係。
シバはちらりとユウナを見た。ユウナは少し首を傾げて笑うと、シバは気難しそうに眉間に皺を寄せて、つんとした顔を横に背ける。
素直ではないシバが、ジウとわかり合える日がくるのが、ユウナには楽しみに思う。