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吼える月
第30章 予感
「そう言えば、ユエちゃん。戦いの協力する見返りに、サクにお願いした約束したことってなんだったの?」
その声にサクが足を止めた。
「どうする、今にするか? 動いてからにするか、まだ温かいが?」
「ん……じゃ…ちょっとだけ、いい? あそこの、お船のところまで。本当は動いている時がいいから、動いた時にまた」
「ああ、わかった」
ユウナは会話の姿が見えない。
怪訝な顔をしたユウナから、温かい襟巻きがなくなった。
「ちょっとすみません、姫様。こいつに貸して下さい」
「きゃははははは!! ふわふわ~、もこもこ~!! きゃははははは~!!」
「よかったですね、お嬢様。頑張った甲斐がありましたね」
「うん! 触ってみる? ほら尻尾なんて……」
「凄いふさふさだ! なんて気持ちがいいんだろう……」
「でしょうでしょう!!」
「………」
ユウナは、何度も目を瞬かせた。
「……イタ公に触りたかったらしいです、あのチビ」
「え!? 言えば触らせて上げたのに! まさか、イタ公ちゃんに触るためだけに、あんな危険を冒したの!?」
「そうです。変なチビでしょう? 黒陵で会った時にイタ公を見て、触りたくてしかたがなかったようです。イタ公触るのには、俺の許可がいると思ってるみてぇで。俺が許可しなかったら、きっと姫様におねだりしたと思いますよ?」
大人顔負けの活躍をしたユエも、ただの子供のようだ。
「イタチちゃん、可愛い~。ワシちゃんも触ってみる?」
ぴぇぇぇぇぇ!! ぴぇっぴぇぇぇぇ!!
「ね、ふわふわして可愛いでしょう?」
ぴぇぇぇぇぇ!!
鳥にも羽先でイタチの見事なふわふわさがわかるらしい。
ユウナは、大人子供・人間動物の区別なく、一体となれる和やかな光景に自然と顔を綻ばせた。