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吼える月
第31章 旅路 ~第三部 朱雀の章~
昔からわかっていたこととはいえ、昔以上に割れきれぬ感情があるのは、ユウナを振り向かせると決めたからだ。
……ユウナの愛を、今度こそ諦めたくない――。
リュカの動きで、ユウナとの距離感が掴めなくなったサクは、ユウナに対して恋心を自制している。空気を明るくするために、おちゃらけてユウナに構うことがあるが、サクの目はどこか元気がなかった。
自分を変えねばならないとサクは思うのだ。
もっともっと、頼りになる……大人の男に。
ユウナに抱きつくのではなく、ユウナが抱きついてくるような…そんな大人に。
……ユウナの愛を得るにふさわしい男に…。
「お兄さん、大丈夫? 苦しそうだけど……、胸が痛むの?」
ふと気づけば、テオンと一緒にユウナも心配そうな眼差しを向けている。彼は心臓付近の服地を手でぎゅっと握りしめていた。
「いや…大丈夫。で、なんだっけ?」
サクは乾いた笑いを向けながら、テオンに話を戻した。シバのまっすぐの視線を感じ、顔を横にそらして。
「公然と緋陵の内部に…、武闘大会が開催されるだろう朱須の街に入れる大会が、もし今回開かれなかったら……、の、もしも話をしてたんだよ」
「あたし、皆の女装、見たいけど……」
「俺は嫌ですからね!」
サクが目を吊り上げた。
「あら、サクだって鼻の辺りサラに似ているから、サラのような美人さんになれると思うんだけれど」
「鼻だけが似てるだけで、美女にはならねぇ…つーか、女装なんてしたくありません! 武官であり武神将である男が、なにが嬉しくて…」
サクの後ろで、鼻でせせら笑うのは、シバである。
「武官を強調できるだけの、いっぱしの男か、お前……」
「あ!? 死に損ないに言われたかぁねぇな!!」
互いに、互いの実力のほどを知りながら、挑発して臨戦態勢に入ろうとするのは、このふたりの"じゃれ合い"だと、テオンとユウナはわかっていた。そしてシバなりの、サクへの…気分転換を兼ねた元気づけだということも。