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吼える月
第31章 旅路 ~第三部 朱雀の章~
サクが、蒼陵に来た時より元気がないことは、皆が気づいていた。
どんなにサクが隠そうとしても、その目が憂えていたから。元気そうにわざと振る舞えば、それだけどこかで歪みがでてきそうな…そんな脆弱さを、今のサクは備えていたのだ。
強靱な肉体をしているのに、どこか儚げで消えそうな……そんな剣呑さを誰もが感じながらも、サクがなにについて憂慮しているのか、どんなに聞いてみてもサクは頑として答えず、すぐに違う話題に誤魔化してしまう。
一同が思ったのは、武神将と繋がる神獣…イタチのことを不安がっているのではないかということ。だから必要以上にイタチは大丈夫だと、テオンもユウナもサクを励ますのだが、サクは気怠げに笑って、ふたりの頭をぽんぽんと叩くだけだ。
とりわけユウナは、いつもサクの近くにいたはずの自分が頼られないのは、自分が弱くて頼りがいがないからだと嘆いていた。サクの力になりたいのに、サクを元気づけることが出来ない自分自身を口惜しく思いながら。
ユウナ自ら封じた、サクへの想い――。
自分の中で、サクが望むものがきちんとした形として既にできあがっていることに、今のユウナは気づいていない。
なにかを思い出さねばならないような焦燥感が胸に渦巻いているだけ。
……そしてシバだけが、サクの憂いの正体と、ユウナのサクへの接し方への違和感を感じながら、喧嘩しているようにも思えないふたりの詳細がわからず、事態を見守ろうとしていた。
パンパンパン。
手が叩れる音がする。
「はいはい、シバもお兄さんも。こっち戻って来て」
子供を引率するようにてきぱきとあしらうテオンは、まとめる側に向いているのかもしれないとユウナは思う。実際彼女より倍近くも年上だと聞いて、ユウナは卒倒しそうになったが、年相応の包括力はあるらしい。
それはテオンの、祠官になりたいという覚悟と自信にも影響されている。
そんなテオンを見る度にユウナは、最初に腕輪を売りつけた少年姿とは違う、成長した姿を見せつけられた気がして、自分もこういう風にぐじぐじしないで頼もしくなりたいと思うのだった。