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吼える月
第31章 旅路 ~第三部 朱雀の章~



 パチパチパチ……。 


 ユウナは、サクがなにか話してくれることをじっと待っていた。

 皆がいれば傍にくっついてくるのに、ふたりきりになると距離は今までにないほどあいている。


 サク自らが作ろうとするその距離が、息苦しくて。


「サク……」

「はい?」


 耐えきれずに名前を呼んだのだが、いつものように笑顔を見せて隣には来ない。わかっていないはずはない。サクは小さい頃から、ずっと隣にいたのだ。武神将の儀式をした時ですら、横ではなくとも足元に……いつも通り、極近くの距離にサクは居たのだ。


 それがなぜ?

 ユウナは、サクが元気を無くしてなにか素っ気ないのが、蒼陵での戦いがひとまず終わり、再発した呪詛の発作をサクが鎮めてくれてからだと、そう思っていた。朝起きたら、サクはなにか違っていたのだ。


 あたしがなにかした?

 あたしを抱くことがいやだった?


 モウ、アイシアエナイノ?


 心の声は意識に届くことはなく、ユウナは女としての歪さを悲嘆した。治療するのも嫌だと思うほど、自分の身体はきっと……おかしかったのだ。二度目の行為でそれが露見し、サクは自分に嫌悪感を抱いて、距離を作っているのだと。


 だが、そうなのかとサクには聞けない。

 そうだと言われるのが怖すぎて。


 ……女として意識されないことを嫌がるのはなにゆえか、悲しみに暮れるユウナは気づかずして。



「サク!!」


 ユウナは涙を堪えながら、パンパンと自分の横の岩を叩いた。

 隣に座れ、と。


「なんですか?」


 サクの声は穏やかなのに、俯いた顔を上げようとしない。

 わかっているはずなのに、近寄ろうともしない。


 だからユウナは、思いきり岩を叩き続けた。


 パンパンパン!!


 お互い、本当に言いたい言葉を堪えての根比べ。



 パンパンパン!!


「………」


 パンパンパン!!


「………」


 パンパンパン!!

 パンパンパン!!



「……うるせぇです、姫様…」


 ……根負けしたのはサクだ。
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