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吼える月
第31章 旅路 ~第三部 朱雀の章~
「サクが起きているなら、あたしも起きてる!」
「姫様……俺と姫様は、違うんですから」
「同じよ!」
サクとユウナは相容れないものだと線引きをされたようで、ユウナは目を潤ませながら、サクに抗議しようとして……岩に躓(つまづ)いてしまう。
「あっ!」
「危ねっ!」
倒れる前にサクが両腕で抱き留めた。
「あ、ありがとう……」
「どういたしまして。はい、これに懲りたらおとなしくおやすみを」
不可抗力的に抱き合ってしまった状況をなんとかしようと、サクは余裕ぶってユウナを自分から離そうとするが、ユウナはサクの腰に両手を回して離れない。
「姫様、離れ……」
「あたしが嫌い?」
「……は?」
彼が思い詰めるまでの心情とは逆の言葉を直球で投げられ、サクは訝しげな顔を向けた。
「あたしの身体、そんなに気持ち悪かった!?」
ユウナが耐えきれずに自らの憂いを口にすれば、その出てくる言葉が異国語のように意味不明すぎて理解出来ないサクは、呆然とユウナを見つめるのみ。
それが、本当のことを言われたから言い淀んでいるのだと誤解したユウナは、爆ぜたように叫ぶ。
「サクだって……仕方が無く"治療"したのはわかってる。サクのおかげであたしが生きていることもわかっている。こんなこと言う資格がないの十分わかってる! だけど……」
ユウナは、目から涙を溢れさせた。
「あたしだって、女の子なのよ? 身体がおかしくたって、心は女の子なの。そうやって腫れ物触るようにして拒まれれば、あたしだって……」
「待って下さい!! 姫様、姫様落ち着いて……」
ユウナがなにか誤解しているのだとようやく悟ったサクは、まずは気を昂ぶらせているユウナを宥(なだ)めようとしたのだが、その慌て様が逆にユウナの心を抉る。
「ふぃっ……ぐっ、うう、うわあああああん」
派手に泣き出してしまったユウナに、サクは慌てふためいて、自分の胸に彼女の顔を押しつけるようにして抱きしめた。
ばんばんばんっ!!
離せとユウナはその手でサクの胸をたたく。
それでも離さないから、サクの足を踏みつける。
……離れたい側と、離したくない側が入れ替わってしまったふたりである。