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吼える月
第31章 旅路 ~第三部 朱雀の章~
 


「ぐっ……こんのじゃじゃ馬……」


 小声で言い捨てたサクは、ユウナの膝裏を掬い、そのまま自らの膝の上に乗せるようにして岩に腰掛けた。


 ばたばたとユウナの四肢が暴れるが、サクの両腕がそれを許さない。



「離して~!!」


 ばたばたばた。


「駄目です」


 ばたばたばた。


「サクのくせに生意気よ! 言うことをききなさ……」

「めっ!」


 目を吊り上げたサクに、ユウナは悄げて動きをやめた。


「わかったから…離して。……寝るから」


 気落ちしたように言うユウナに、今度は就寝を言い立てていたサクの方が反対する。


「駄目です」

「寝ろと言ったのは…「誰が姫様を嫌っているって?」」


 まっすぐな瞳で、目を赤くさせながらふて腐れているユウナを覗き込む。


「誰が、姫様を女扱いしてないって!?」


 それは、あまりの理不尽さを詰るような瞳――。

 ユウナは唇を尖らせて、サクに責められることに不服な態度を見せた。



「あたしが気持ち悪いから、サクはあたしに近寄ろうとしないんでしょ!?」
 
「なんでそんな突拍子もないことを……」

「じゃあなんで、あたしと距離を作ろうとしているの!?」


 澄んだ目にじわりと涙を浮かべて尋ねるユウナには、サクは口ごもる。


「言えないのはあたしが…「好きだって、言ってるだろう!?」」


 サクが反射的に叫んだ。
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