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吼える月
第31章 旅路 ~第三部 朱雀の章~
 
 

「……はぁ。こうやって、俺のことを押しつけることになるから、だから距離を保っていたかったのに……」


 サクは片手で顔を覆った。


「情けねぇ……」


 ユウナはどう反応していいのかわからず、手を伸ばして項垂れているサクの頭を撫でた。


「なんですか、それ」


 顔を上げないまま、サクが不満そうに尋ねる。


「いや…なんとなく落込んでいるから」

「その理由はわかってます?」

「う……ん?」

「なんで語尾があがるんですか! あまりよくわかっていないのなら、そんな同情はよして下さいよ。惨めになるだけですから」

「同情じゃなくて……」


 サクは、頭を撫でるユウナの腕を掴んで言った。


「同情じゃなかったら、なんですか?」


 その目は、ユウナに切に訴えていた。

 
 好きになって欲しいと。

 リュカより自分を愛して欲しいと。


 ……だがサクは、それを口に出すことはしなかった。


 これ以上、押しつけることは言いたくなかったのだ。

 こうして自分がわめいているのは、欲しいものが得られずに騒ぐ子供の駄々と同じだと思えばこそに。


 男の矜持だけの問題でもない。

 押しつけて得られるものを、サクは欲しくなかったのだ。


 そんなものでいいのなら、とうのとっくにそうしていた。
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