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吼える月
第31章 旅路 ~第三部 朱雀の章~
「いつもなら……治療だろうが治療じゃなかろうが、目覚めたら近くにサク、いるじゃない! それなのに、サクはいなかった! そう考えたら、嫌われる原因は、"治療"しかないじゃない。嫌だったんでしょう!? だったらもういいよ、あたしサクにもう頼まないから。今までどうもありがとう! もうこれからは……もごもごごご!?」
ユウナが途中で言葉を途切れさせたのは、サクがユウナの口を手で押えたからだ。怒りに満ちたような険しい眼差しで、ユウナを射抜く。
「本気でそんなこと言っているのなら、俺怒りますよ」
「もご、もごもごもご(だって、あたしのこと嫌ってるじゃない)」
ユウナは頬を抓られた痛みで、サクが言っていた言葉は"リュカ"しか聞いていなかった。それがわからぬサクは、素通りされた自分の"好き"を憂えて、悔しさに唇を噛んだ。
「天然なのかわざとなのかわかりませんがね、この姫様は……本当に俺を振り回すのがお好きなようで」
「もごもごご、もごご(振り回されているのは、あたしよ)!」
「それとも……俺を試しているんですか?」
サクは嘲るように笑った。
「それとも……俺の想いが邪魔になって?」
悲痛な翳りがサクの顔を覆っていた。
「言ったじゃねぇですか、俺とのこと……考えてみるって。それなのに、なんですかそれ。俺……、そんな男に思えるんですか?」
泣き出しそうなその表情に、ユウナは思わず息を飲む。
「なんにも伝わってませんか、俺の想い……」
どくん。
ユウナの心臓が跳ねた。
脳裏の奥に、靄がかった…なにかの輪郭が見えた。
「姫様の武神将になった覚悟、全然伝わってませんか!?」
サクの荒げられた声によって、それが見えなくなっていく。
「俺の目を見て下さいよ、姫様。俺、姫様を嫌ってますか!? 姫様を女として嫌悪しているように見えますか!?」
代わって見えるのは、サクの熱く滾る黒い瞳。
……ユウナの胸の内を熱くさせる、そんな瞳。