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吼える月
第31章 旅路 ~第三部 朱雀の章~
「サクに嫌われたら、あたし……どうしていいのかわからない」
この瞳で言われたら、逆らえない。
この瞳に、もっと映して貰いたくなる……。
「お願い……。あたしから離れないで。
……すぐ隣にいて。距離を作らないで」
サクは夜空を振り仰いだ。
赤い月に、星が瞬いている。
邪と澄が同在する矛盾な星空は、まるで今のサクの心のようだった。
ユウナがリュカを想っているという事実は消えたわけではない。それはこの先も、胸に燻り続けて行くだろう。
そう思うのと同時に、清らかな瞳で自分を縛り付けてくれたことが、サクにはたまらなく嬉しく思えた。
ユウナが必要としているのはサクだと、離れたくないと……それがたとえ恋心から出たものでなくとも、リュカの存在に気鬱だったサクの心を奮わせ、そして瞬く星のように澄んだものにさせたのだ。
サクは、溜めていた胸のつかえを、吐き出した。
「俺……かなり嫉妬深いです。姫様が思っている以上に」
「うん」
ユウナは、サクの言葉をすべて受け止めるつもりで、真剣な顔をしたまま、大きく頷いた。
「姫様を独り占めしたくてしかたがありません」
「うん」
真剣に答えながらも、ユウナは少しだけ頬を赤く染めた。
「リュカに妬きました」
「うん」
「めっちゃくちゃ妬きました」
「うん」
「姫様が今でもリュカが好きなんだと、いや……再燃してしまったのだと、今も考えただけでも気が狂いそうです」
「ええええ! 」
ユウナは飛び上がらんばかりに驚いた。
ユウナにとって、リュカへの恋情は薄れていたのだ。……それがなぜなのか、気づかぬままに。
「……そこで、イタ公が玄武だとわかった時のような顔、しねぇで下さい。俺の悩みが、あまりにおかしいように思えるじゃねぇですか」
「あ、ごめんなさい……」
おかしいのだと言いたいのを飲み込み、ユウナは謝った。