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吼える月
第31章 旅路 ~第三部 朱雀の章~
意を決してサクが口にした、"リュカへの嫉妬"。
それを即座に否定したユウナの反応に、サクは少し胸を撫で下ろした。
……心の奥底は違うのかもしれない。いまだそんな猜疑心は渦巻くけれど、それでもユウナの率直な反応が、陰鬱だったサクを救った。
言葉にしないでおこうと思っていた。自分さえ物わかりをよくすればいいのだと、背負い込もうとしていたサクにとって、言葉にすることは、それを現実のものと確定しまうようで恐ろしいものでもあった。
だが言葉にしてよかったのかもしれない。言葉にしたから……こうして安心できるものができたのだ。
ユウナに片想いをしてからずっと、自らの想いを言葉にすることを抑えてきたサクにとって、言葉がもたらす力の偉大さを痛感した。
あれほど重かった心が軽くなり、再び頑張ろうという前向きの心になれたのだ。
形のないものを推し量ることはできない。それに対して疑心暗鬼になることは簡単だが、時にはそれを確かめることの重要性もサクは感じた。
だが、同時にこうも思う。
今はまだ、リュカへの気持ちを自覚していないだけではないかと。
次に問えば、違う言葉が返ってくるのではないかと。
それでも――。
たとえ遠回しであろうとも、自分が感じている心を言葉で伝えられる今の状況は、昔とは違うことには感謝しないといけないとも思う。
昔なら、この話題に触れることも出来なかった。なにひとつ、言えなかった。ただリュカに嫁ぐユウナを見ているだけしかできなかったのだから。
今の状況に甘んじてはいたくないと思う。
リュカの面影に、勝てる男にならねばならない。
安穏してはいられないのだ。
ユウナを手に入れるためには――。