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吼える月
第31章 旅路 ~第三部 朱雀の章~
せがむような眼差しが、サクの男を煽り立てていく――。
もっとユウナの女を感じたいと。
もっと奥に触れたいと。
だが――。
脳裏に一瞬、閃いたように過ぎったものがあった。
サクは苦しげにぎゅっと眉間に皺を寄せながら目をつむると、ユウナから顔を離した。
恍惚気味にぼうっと見上げるユウナをもっと愛でたくなるのをぐっと堪えて、サクは無理矢理に笑った。
「これでわかったでしょう? 俺が姫様を嫌っていないのは」
「サク……」
「……これは"事故"を利用して、姫様が女だという証明をしただけです。俺は押しつけねぇって……そう約束したんですから!」
そこには愛はなく、演技だったのだと……まるで自分自身に言い聞かせるようにサクは言った。
我に返ったのだ。
最初はユウナに自分を意識させて、ただからかうだけのつもりだったのに、いつの間にかもう少し先を望み、ユウナに誓った言葉を違えてしまったことに、気づいたのだ。
布一枚あっても、事実は変わらない。
独りよがりに、自分の愛を押しつけようとした事実は。
狭量な自分を猛省し、忸怩たる思いとなる。
男を認めてもらいたくて男をぶつけるのは、言い訳がましいただの暴漢に他ならない。いつから我慢が出来ない人間になった? これならば、だめだ。こんな自分では。
いつまでたっても、リュカを越えられない。
サクは、ぎゅっと拳を作る。
「すみません……俺……、………、……姫様?」
突然に腕の中に沈んだユウナに訝しんだサクは、ユウナを見て脱力し……悲痛な声で憤った。
「なんで寝れるんですか! 今、この時に! 俺……そこまで男じゃねぇんですか!?」
手を握ったまま、すやすやと嬉しそうに眠っているユウナ。
サクが男として接してくれたことによる安堵に、ほっとしたところに甘い刺激を受け、意識が朦朧とした途端、疲労を感じて睡魔に襲われたのだ。