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吼える月
第32章 多難
一同見渡せども、一面砂漠の異世界。
その中には輪郭があるものはなく、鈍色の曇天との端境までよく見える。
イタチこと玄武を救う鍵となるものすべて、緋陵国は――その一切を、既に砂に埋めてしまっていた。
「なんで砂漠!? いつから砂漠!?」
予想を大きく裏切られた現実を受け入れられないテオンが、弾かれたような甲高い声を出す。
「なになになに!? 蒼陵みたいに天変地異があったの!? 緋陵でも神獣が暴れてこうなったの!? ぅぅへええええええ!?」
極度の驚愕と混乱の最中にあるテオンは、おかしな声を上げて走り、砂漠の中に足を踏み入れていく。いつもの倍速の早さで。
「あいつ……またか! テオン、待て!!」
シバが珍しく焦った声を出して、見る見る間に小さくなるテオン追いかける。ユウナはその後ろ姿に声をかけた。
「シバ、"また"って!?」
すると青い髪を翻しながら、シバは叫び返す。
「蒼陵で初めて巨大魚を吊り上げた時、その大きさに驚きすぎたあいつが、突然わめいて巨大魚の大きな口の中に入り込もうとしたんだ!」
「ぶっ!」
ユウナの隣に立つサクが、思わず吹きだした。
「それ以降諸々、度を超えて驚きすぎると、わざわざ危険に飛び込む。飛び込むというか、危険を自ら呼ぶんだあいつは!」