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吼える月
第32章 多難
◇◇◇
屈強な男ふたりが、刀剣を持ちながら砂漠に入っていく。
すると待ちかねたように砂が沈み、鉛のような身体を見せる巨大な蠍があとから現れ、砂漠の侵入者たるふたりを襲ってくる。
「うっわー、やっぱり一体じゃなかった。何体いるのさ、あの巨大蠍!」
テオンがぶるぶると身震いした。
ふたりに叩き切られて骸となった場所に、また新たな蠍が現れ尾を振り回す。たとえふたりが強かろうと、こうして数でこられては明らかな体力戦になる。
しかも砂を足場にできないため、ふたりは蠍の身体を足場にして、跳ねるようにして刀を振り回しているが、その足場は倒せば沈んでいくのだ。また足場確保をしなければならない。ただの蠍退治ではないのだ。
広い砂漠にどれだけの巨大蠍がいるのかわからないが、今からこんなに足を止められてしまうのでは、そこに行き着く前にふたりの体力は消耗してしまう。たとえ、ふたりが尋常ではない体力をもっていても、他国で自国の神獣の力は使えない。
おかしなものが現れたのは、それよりずっと奥なのだ。
「お姉さんと見た、あっちの方はまだまだ先にある。ああ、僕があそこに飛んでいけたらいいのに。なんだか一匹ずつ蠍を退治するより、あそこに不審なものがあるのなら、そこを押さえた方が早いと思うのに」
テオンが地団駄を踏む。
その不審なものが蠍が無関係であるのなら、あの場所に行くのは無意味だ。そして同時に、イタチを救うための緋陵の神獣や武神将を一からこの砂漠で探す羽目になり、途方に暮れてしまうことになる。
「サク達、前に進めないみたいね」
ユウナも心配気な声を出して見守る。
こうして見ている側であることがもどかしい。
力があれば、サクの手助けができるのに。
ユウナはイタチを撫で、反対の手で牙を握りしめた。