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吼える月
第32章 多難
サクはコホンと咳払いをひとつしてから、言った。
「姫様。神獣の力を持つ、と俺が言ったのは、簡単に言えば、神獣と契約をした武神将の血による特殊なもの。それが流れているから、俺もシバも互いに神獣の力を感じ取れた。そういう生まれつきのもののことです」
「そういう分類ね、わかったわ。じゃあサクとシバがなにもわからないというのは、神獣と関係ないから……? あれ、なにかおかしいわね。ふたりは神獣以外のものにも、普通のひとより目聡く見つけられたり、気配感じたり出来ると思うけれど」
シバが呟いた。
「もしかすると……、逆に、神獣の力が邪魔になっているのか? 邪魔をしているなにかの力も感じないが……」
シバの言葉に、テオンがサクの背中を叩く。
「ねぇ、お兄さん。一緒に行ったあの青龍殿も入り口に符があって神獣の力を拒んでいたよね。だったら、これもなにか……」
すると、考え込んだサクが言った。
「そうか、そういう結論なら……道は拓かれるかも」
「え?」
ユウナが髪を揺らして、サクを見つめた。
「姫様。神獣の力を拒むような術を使うのは"人間"か、神獣しかありません。だとしたら、居るんです。砂漠となった緋陵に、朱雀の武神将か、神獣が!」
三人は砂漠を見つめた。
「そういう術を使うのは決まって、"緋陵に立入らせたくない"なにかの理由があるはずです。だったら、そこをなんとかすりゃ、イタ公の特殊事情を汲んで貰える可能性も、ないわけではないということです!」
蠍が出るこの広大な砂漠を歩いて、炎の鳥のいる場所を探さなくともよくなったとはいえ、緋陵の立ち入りを禁じる者が、この砂漠のどこに居るというのか。
「姫様とテオンが見たという周辺の場所に行ってみるとかねぇ。神獣の力を持つということで、仲間外れにされちゃあ、男が廃るってもんよ。な、シバ」
シバは返事の代わりに、青龍刀を持ち上げた。