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吼える月
第32章 多難
「お前、毛がどうのと言っていたが、あれはなんだ?」
『ああ、我の毛がすべて抜けたら、我は死んでしまうのだ』
「はああああ!? なんだそれ!!」
『我を救う者が現れる時の確信と同じように、確信するのだ。だから毛が抜ける前にお前達と会えてよかった。ところで我の毛はどれほど残ってる?』
皆がラクダの頭を見た。
シバに持ち上げられたテオンが代表して言う。
「顔のひげを入れるとすごくたくさんだ」
『顔は入れるでない。頭の上だ』
テオンは言うのを嫌がった。
同様にサクに持ち上げられてラクダの頭上をのぞき込んだユウナが、自分はいえないと頭を横に振った。
サクも複雑そうな顔をして躊躇しているために、シバが言った。
「三本だ」
『さ、三本だと!?』
ラクダは前足を頭に置いて、気の毒そうに見ている熊鷹に、潤んだ目を向けた時、微風が吹いてさらに一本の毛がふわりとラクダの前に舞い降りた。
『あ、あ……』
「ラックー。毛の確信は妄想だ。お前のその身なりから、毛がなくなろうとなにも変わりはねぇから」
『みなりの話ではあらぬ! 我の命の問題で……』
「命がなくなるわけではねぇんだろ? 長き眠りにつくだけで」
『ああ、そうだが……やけにお前詳しそうだな』
「ああ。お前より、危機に遭っているんだ、イタ公は。今度はこっちの話を聞いてくれねぇか?」
サクは、玄武が神獣の盟約違反によって目覚めないこと。
そしてこの弱々しい身体ではあと七日間の罰則に耐えられないため、長き眠りに入る前に、イタチを助けたいこと。
そのために青龍から、緋陵の"溶岩にいる炎の鳥の涙"をイタチに飲ませるといいと言われて、それを取りに来たことを言った。
「盟約違反といっても、民を助けるためにイタ公は頑張ったんだ。今度は俺たちが守りたい。人として民として」