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吼える月
第32章 多難
『そうだ。こうして顔を出せば灼熱と化す砂漠というのに、その下には、ありの巣のような袋状の場所に水場があり食料がある。どこになにがあるのかは、我は探検しておらぬゆえにわからぬ。さすがに我がいた場所に肉はないが、そんなもの食べずにいても死にはしまい。蠍がしてくれたのはそれどころではない。我の待ち人をああして"試して"くれていたのだ』
「試すって……まさか」
『然り。我を救いに来る者かどうかを。我を救う者がどんな形でいつ来るのか、我はさっぱりわからなかった。時折人間がこの砂漠に来たが、神獣の力をなくした我が、その人間の"特殊さ"などわからぬ。だから蠍は試してくれたのだ。だが皆、たやすく蠍にやられた。我を救う力などなかったのだ。
然れば、蠍にやられるではなく、さらに我がどこにいるのかここまで探しに来たお前達こそ、我を救う者だと思い、こうして姿を現したのだ』
ユウナは、砂が鼻に入ってくしゃみが止まらないために姿を現したような気がしたが、それはテオンと同じく黙っていた。
「じゃあなんだ蠍は、あんなに多くこの砂漠にいて、お前のために動いているということか?」
『然り。砂漠の表面には出ないが、少し潜ればわんさかといる』
シバが尋ねた。
「緋陵が砂漠になったことに、思い当たることはないのか? いつからとか」
『あらぬ。前に言った通り、我がこの姿でいつからいるのかもよくわからぬのだ』
「だったら……夜、お前は黄金色の月を見たことがあったか?」
サクの問いに、ラクダは少し考えるようなそぶりを見せた後、言った。
『いや、そういえば……赤い月ばかり見ていた』
テオンが手を叩く。
「だったら、ラクダの言うことが正しいという前提で。予言の日以降、朱雀はラクダに変えられ、神獣の力を失った。そしてその時すでに、緋陵は砂漠になっていたということだね」
「なあラクダ」
『我は朱雀だ』
「朱雀の姿になったらそう読んでやる。だからそれまでお前はラクダの……ラックーだ。これからはこいつのことを、ラックーと呼ぶぞ、いいな」
ユウナは喜んだが、テオンとシバが吹き出した。
「お兄さん、なにその変な名前……」
「単純……」
「こいつのこの顔で! 高尚な名前が似合うと思うか!?」
……誰もが言い返せなかった。