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吼える月
第32章 多難
「お兄さん、簡単に言うけど、どうやって……」
「ひとつ可能性がある。玄武がイタチの姿をしているのは、俺と契約をしたためだ。それは武神将となる一環。先例を省略して短期間で力をつけるためだ」
そう、ユウナを助けるために。
「その時、俺は……玄武との約束でふさふさ白イタチの姿を想起したところ、それがイタ公として人間社会に出てきた。まあ俺の力不足で、小亀に見える奴もいるが、そこら辺誰もがイタチで見えるようになったことを思えば、イタ公が自ら補正したのだろう。
つまり、神獣に許された者は、神獣の姿を変えられる。
だとすればラックー。お前、武神将なり別人なりの素質をはかるために、なにか試したり契約したりしてねぇか?」
『我は……』
ラクダの目が細められる。
『すまぬ。なぜこうなったのか、記憶を思い出せぬのだ。なにか原因はあったはずなのに』
「それが赤い月の影響か光輝く者達の影響かはわからねぇが、ゲイに傅(かしづ)くリュカは、黒陵だけではなく、蒼陵にも早々に仕込んでいたんだ。
緋陵には手を出していないとはいいきれねぇ」
リュカ――。
サクは心の中で、裏切り者である幼なじみの名を呼ぶ。
「赤い月の時、黒陵では玄武の加護なく玄武の祠官が殺され、蒼陵では青龍が眠り、緋陵では朱雀が力をなくしていた。
あの夜から、そう大して時間は経っていねぇ。ここまでの砂漠化を、神獣が許すはずがねぇとは思うんだ、俺は。
ラックー。お前力取り戻して、なにをしてぇんだ?」
『ただひとつ。女神ジョウガから任せられていた我が国を、元に戻すこと。それ以外になにも望むまぬ!』
「だろう? あの予言の夜から、なにかの原因があって神獣の力がなくなったはずだ。だとすれば、神獣の力が戻れば、景色が変わるかもしれねぇ」
「景色って?」
ユウナがイタチを撫でながら聞いた。
「そのままです。砂漠から、元の姿に。
俺は……これが幻術だと思っています。偽りの青龍殿で、テオンと見たような」
サクはテオンを見た。