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吼える月
第32章 多難
『神獣の力を重要視するのか、重要視しないのかは、それぞれの神獣の考え方によって違う。
玄武は防御を担う役割ゆえに、より強き者を求め、神獣の力を強く持つ者を選ぶ。小童、お前の父もそうであったろう?』
「俺まで、テオン同様小童(こわっぱ)かよ。ま神獣は年取ってるだろうが」
「お兄さん、僕より年下でしょ! 僕が小童なら、お兄さんなんて小小童だよ!?」
小さいと言われるといきりたつテオンに適当に返事をして、サクはラクダに言った。
「ああ、確かに親父は玄武の力を使いこなしていた。それはイタ公も認めて、ちゃんと親父に話しかけていたぞ? まあ、一方的だが」
『なんと。神獣が自ら特定した者に声をかけるのは、相当なのだ。よほど父は玄武に気に入られていたのだな』
「そうだろうけどよ、俺だって声をかけられているぞ?」
「あたしもそうよ」
するとラクダは鼻の穴を大きくさせ、荒い鼻息を見せながら言った。
『なんと、あの玄武が……人に声をかけるとは』
「イタ公は声をかけねぇ神獣なのか?」
『神獣は人の世界に介入してはならぬ盟約がある。それを律儀に生真面目に守るのが、いつも玄武と青龍。だから声をかけるなど……』
「あ、僕の国の青龍も、シバのおじさんに乗り移って、話してくれるよ?」
『なんと、青龍までもか!』
ラクダは世も末だと失礼なことを吐きながら続けた。
『玄武も青龍も、盟約を遵守し過ぎる、まるで融通きかない頑固さがあってな、選ぶ者も選りすぐりとなる。さらに言えば、四神獣のうち青龍が一番生真面目で、武神将などもし気に入らなければ、その怒りは一番堅固な玄武ですら、身体を張っても危険だ』
「玄武に任せて、その間お前と白虎はなにしてるんだよ」
『我は……そ、その……白虎と喧嘩をよくしておってな……』
しどろもどろだ。大きい目が忙しく動いている。
「ああ、青龍も言ってたな、お前は気性が激しすぎると」
今は、笑いを誘うだけのラクダだとサクは言いたかったが、朱雀の神獣としての尊厳が残っているだろうと、あえて黙っていた。