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吼える月
第32章 多難
『白虎がぐうたらで仕事をしようとしないため、我が喝入れるのだ!』
険悪の仲なのか、鼻息が荒い。
「その喧嘩の勝敗がつかなかったら、どうしてたんだ」
『間に入った玄武が……我の突き攻撃を甲羅で受けて』
神獣の大喧嘩を思い出すと、どうしてもハンとサラの夫婦喧嘩を思い出してしまう。あれは、神獣の特性を持つのかもしれない。
「また"慈愛深い"玄武頼りかよ。イタ公も苦労性だよな……」
サクは大仰なため息をついて鷹を見た。
「お前、白虎には突き攻撃していたくせに、ワシの突き攻撃が怖いのかよ?」
ラクダはしゅんとなった。
「しっかし白虎がぐうたらとは。確かに親父も、白陵の武神将は変わり者で勉学ばかりしていると言っていたけれど……神獣のぐうたら……。青龍も寝ていたが……」
「ねぇ、シワちゃん。あなたの国の神獣は、ぐうたらなの?」
ぴ……ぴ……ぴぇぇぇぇぇ?
断定せず、目が泳いでいる。
母国心溢れる鷹のようだが、目が泳いでいる。
一同は、一番猛々しく思える白虎が猫のようにごろごろとしている様を想像して、白陵には行きたくないと思った。
「お前はどうなんだよ」
どう見ても奇妙な生き物は、嬉しそうに目を細めて言った。
『我は神獣の力は重要視しない。我が選ぶのは、男に負けない強さと、どんな困難にもくじけぬ激しい気性だ。その点、サラは勇猛だった。まさか忌む男と出会って牙が抜けてしまうとは。イヒ、イヒヒヒヒ』
ぴぇぇぇぇぇ!
笑い出したラクダは、鷹のひと声に黙り込んだ。
『緋陵での我との契約は、武神将だけが火の力を操れる。歴代の祠官は力はないのだ。だからその分、朱雀の武神将が猛々しくなければならぬ』
「お袋の後に武神将になった奴は? そいつが現行の朱雀の武神将だったんだろう? 確かお袋の妹のはずだが」
『ヨンガだ。ヨンガ=イーツェー』
「当時のなにか記憶あるか? なにか推定できるものがあれば、探し出せてお前の事情も聞けるかもしれねぇ」
『あやつは……』
ラクダは目を細め、記憶を探るようなそぶりを見せた。
『ああ、そうだ。なぜ忘れていたのか。あやつは……』
そして続けて言った。
『一年前、イーツェー家を皆殺しにして……自ら命を絶ったのだ』
――と。