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吼える月
第33章 出芽
「ああ、蒼陵にリュカというのと、皇主の三男とか言うのが来た年だったね、そういえば。お兄さん、おかしなところで驚異的な記憶力あるよね」
「黙れ」
リュカと結婚が決まったのも一年前。それをあえてサクが口に出さないことを感じ取ったユウナは、ふと口にした。
「皇主の三男?」
「ああ、姫様はあの時いなかったから、聞いてませんでしたよね。皇主の三男って……」
「忘れてたわ」
ユウナは口を押さえて、シバを見た。
「シバ! あれ以降、スンユを見た!?」
「いや、そういえば……」
「姫様、知ってるんですか? シバも」
「知っているもなにも……サクとテオンが青龍殿に行っている間、スンユが来たのよ、【海吾】の根城に。まあ怪我をしたのを、【海吾】の皆が引き上げてきて、手当をしてあげていたんだけれど……。サク、なんとね!」
サクはユウナの言葉を先に悟った。
「リュカにそっくりだったんでしょう?」
「そう、そうなの! なんでわかるの、サク。スンユには会っていないはずなのに」
「ああ、蒼陵の一年前、リュカとスンユがテオンの親父……祠官とジウ殿に会いに来たらしいんです」
「まあ、なんで?」
「話は長くなるんで、取引ということにしときます。リュカとスンユは同じ顔ながら、それぞれ違う主張をしたんです」
リュカの名前を出す度に、サクはユウナを見つめる。リュカに惑う心が本当にないのかと。……そして嫌になる。自分の器の小ささに。