この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
吼える月
第6章 変幻
「俺ができるのは……姫様を幸せな世界に送り出すことだけだからっ」
ユウナの伸ばした手を、サクは取らなかった。
だから拒まれたユウナは、快感と同時に苦痛を覚えてもがいた。
……リュカに与えられた"苦痛"を彷彿させるほどの。
サクが離れていく――そんな苦痛。
「せめて、姫様……。姫様を、幸せな世界に連れていく男の名前を……呼んで下さい。それだけでいいですから、それだけで俺は残りの日々を耐えられますから。だから……俺に夢見させて下さい。一緒に、姫様が永遠に一緒にいきたい……男の名前を……っ」
――苦しみ続けろ、永遠に。
どくん。
ユウナの中で、記憶の蘇生は突然だった。
ユウナが感じた"苦痛"と、サクが紡いだ"永遠"。そして――。
――覚えておけ、僕の名を。
"名前"。
快感と苦しみが同時に迫り上がり、ユウナは絶頂の声を上げた。
その声は、あの惨劇の悲鳴の記憶と重なった。
記憶に刻まれた、激しい憎悪を見せたリュカの声音が、彼がかけた呪詛の発動とばかりに、ユウナの全身に熱く駆け巡る。
――さあ、言え、僕は誰だ!?
「姫様、姫様が幸せを感じる男の名前を――っ!!」
――言うんだ!
「リュ……カ……」
――もう一度言えよ、お前を心から憎悪している男は誰だ!?
「リュカ――っ!!」
――苦しみ続けろ、永遠に。
薄れゆく意識の中――
「くっそぉぉぉぉぉぉ!!」
どこかで誰かが吼え……、
そしてむせび泣く声が聞こえた気がした。