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吼える月
第33章 出芽
「一年前にリュカが動き出した。あいつは予言が成就するように、黒陵だけではなく蒼陵にも布石を敷きに、事前に動いている。ならば緋陵にも布石を敷いてしかるべきだ」
「それが、朱雀の武神将の狂乱か?」
シバの問いに、サクは頷く。
「青龍が眠る蒼陵もそうだったが、朱雀の力を担う朱雀の武神将がいない緋陵も、到底予言を阻むための神獣の力による結界など作れなかった。
この分だと白陵もそうだろう。リュカはヨンガに罠をかけたのだと思う。リュカが長いこと国外に出たのは、蒼陵の時と同様、一年前の四国合同会議の時だけだ。その時リュカは、ヨンガに接触した気がする」
そしてサクは、ラクダに訊いた。
「一年前、他国から誰かこなかったか? なにか記憶ないか?」
『ふむ……。我は人の世界に関知せぬゆえに。ただ……ヨンガが我に祈りを捧げに来たことがあった。今までそんなことがなかったゆえ、覚えておる。確かそれは……ヨンガが死ぬ数ヶ月前、春のことだったが』
――神獣朱雀。どうか……姉をお守りください。
「春に会議でリュカは、黒陵を出た。時期的にはリュカと会った後かもしれねぇな。ヨンガはお袋のことで、リュカからなにか脅されてたのか?」
「脅されていたら、なんで一家を殺すの? 一家を殺すことが、サラを守ることに繋がるのかしら。リュカから理不尽な殺しを言われたとか? 弱みを握られてたのかしら?」
サクとユウナの問いに答えられるほどの知識は、ラクダにはなかった。奇妙に思えた、断片的な事象しかわからないのだ。
「ヨンガは死んでしまったのなら、"炎の鳥"情報を持つのは祠官だけだ。ラックーは溶岩の位置は覚えていると言ってたな」
『然り。108の位置を覚えておる』
「108!?」
一同は驚いた声を出した。
砂の下に、運良く溶岩があったとして。
炎の鳥が言葉通り、溶岩の中に居たとして。
炎の鳥と出逢える確率は、1/108。
「ラックーちゃん。それを全部回るとしてら、どれくらいかかる?」
『溶岩は点在しているからな、一ヶ月もあれば……』
「あと七日しかねぇんだよ!」
サクが怒鳴り、ラクダが怯えた声を出した。