この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
吼える月
第33章 出芽
「ん、なあに蠍ちゃん」
ユエが突然そう言ったのは、蠍の鋏が、ちょんちょんとユエを突っついたからだった。軽くであれば突いても怪我はないらしい。
「どうした、チビ?」
「あのねぇ、ふたつのところになにか文字が書かれているみたい。とっても古い文字みたいだから、読めないんだって」
「蠍が文字を読めるのもどうかと思うが、ラックーは文字わかるか?」
『我にわかるものであれば。まあ、人間の作ったものであるのなら大概に』
「よし。テオン、お前はどうだ?」
「本で見たものであれば大概に」
テオンも胸を張って、ラクダと同じように答えた。
多くの書物から得た知識は、テオンの自信になっている。
「よし、じゃあ……」
サクの続きを、ユエが無邪気な顔で遮った。
「サクちゃんは? 大きいから読めるよね? 頭がいいお父さんはそういうの読んでいたんじゃなかったの? 武神将なんだし」
「……チビ、俺は……」
サクが涙目で苦しそうに顔を歪めた時、ユウナがにこやかに答えた。そう、いつも通りに。
「ユエちゃん、サクは人間の言葉で書かれたものも怪しいわ」
「姫様!」
「やっぱりサクちゃんお馬鹿さんなんだ~。だったら、サクちゃんが駄目でも、頭がいいユエなら読める!」
「ありえねぇ」
するとユエはぷっくりと頬を膨らます。
「ユエは読めるもん、読めるもん!」
サクがため息をつきながらユエの元に寄り、襟首掴んで宙にぶら下げながら言った。
「時間が惜しい。二手にわかれる。チビ、もう一匹蠍を呼べ」
「無理~。ユエの言うこと聞いてくれる蠍ちゃんは、この蠍ちゃんだけだもん。一緒に行こうよ~」
「はああああ!? 一匹だけ!?」
『イーヒッヒッ。ほら見ろ、蠍と仲がいいのは我の方……』
ぴぇぇぇぇぇ!!
「ワシ、お前もわかってきたな」
ぴぇぇぇぇ~。
「だったらラックー。お前なら呼べるのか?」
『然り』
勝ち誇ったように言うラクダは、顔を空に向けて、ひぇぇぇぇんというのような泣いているような、頼りなげなおかしな声を出した。
ざざあ!
「うおっ!」
思わずサクがよろけたのは、サクのすぐ近くに蠍が出現したからだ。