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吼える月
第33章 出芽
さらさら揺れるサクの髪が気になる。
触りたい。
わしゃわしゃしたい。
「ぎゅっとして欲しいなら、何度でもしますけれど、ぎゅっじゃなくて俺の方を好きに……なにしてるんですか!」
「いや……、サクの髪がさらさら綺麗だから触りたいなあと……」
「………」
「………」
「………」
「……どうしたの?」
「……姫様、なんで俺の髪に触りてぇんですかね? 他の奴のも触りてぇんですか? たとえばリュ……いえ、シバの髪とか」
「ああ、シバの髪は触ってみたいわ。青色が見事……いたっ」
リュカを回避したたとえが悪かったサクが指弾きをして、ユウナは額を手で押さえた。
「この浮気者!」
もう一度、指弾きをする。
「浮……いたっ、浮気なんて酷いわ、サクの髪の色は別に珍しくないじゃない。サクだけよ、普通の髪の色で触りたいのは。髪だけじゃなくて、サクの身体も触りたいし、サクならぎゅっとされてもいいわ。サクなら唇……いえ、サクはいつだって特別だもの」
「………」
「………」
「………」
「……?」
今度はユウナのたとえが悪かったことに、ユウナは気づかない。サクが黙ったままなのに訝り、ユウナが後ろを振り向こうとするが頭を抑えられて出来ない。
「あああ、くそっ。心がねぇくせに、なに俺をうぬぼらせる殺し文句……俺を殺す気か、この姫様は。……触りてぇのは俺の方です。ああ、もうしらねぇぞ俺、単純なんだからな……」
膝を立てたサクの身体に、ユウナはすっぽりと包まれる。
サクの匂いがユウナの鼻を擽り、サクの熱が服を通してユウナの全身に広がり、心臓がうるさい。
「サ、サク……」
「なんですか?」
急に艶っぽくなったサクの声が、耳の傍で聞こえれば、心臓が口から飛び出そうなほどに、ドキドキが止まらなくなってくる。
「ち、近い……」
ようやくそれだけ言うと、ユウナは身をよじらすが、サクの膝と腕に阻まれて身動きできない。
「離れたら嫌なんでしょう?」
ちゅっと、耳に唇を落とされた音がして、ユウナはぶるりと身震いした。その震えすら感じ取りたいと言うように、ユウナの腹の前に巻き付く両腕をサクは強めた。
「ぎゅっとして欲しいって、誰が言ったんですかね?」