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吼える月
第7章 帰還
・‥…━━━★゚+
今夜玄武殿から帰らぬはずの息子が、明日婚儀予定の姫と共に帰還した。
思い余っての駆け落ちではないらしい。
一体どうしたのか事の詳細を聞こうと、部屋にて待機していたサラだったが、突如屋敷に響いた咆哮に部屋を出た。
その前に一度、姫らしき女の悲鳴は聞こえたけれど、サクがいる手前、駆けつけるのを我慢した。廊に出てきた使用人達も部屋に帰した。
まさか、姫の婚儀に自暴自棄になり、浴室で無体なことをしているのでは……と内心穏やかでいられず、部屋の中をうろうろと歩いていたのだが、その矢先に今度は息子の声だ。
廊には再び使用人達も集まり、どこからのなんの声かと騒ぎたてる。
サラは……その咆哮がサクの泣き声だと確信があった。
声変わりをする前はよく、ハンに絞られる度に「母上~」とサラに抱きついてきたものだった。
だが姫の護衛役として男らしく成長し、サラのことを"お袋"と呼ぶようになってからは、サクはサラには涙を見せなくなった。
ユウナ姫とリュカとの結婚が決定した時も、サクは泣きそうな顔をして荒れているのに、サラには泣き言も涙を見せなかった。
――お~、なんだお袋。俺? 俺は元気だ、なんだ老眼か?
憎まれ口は相変わらず、だが憔悴仕切った顔で無理矢理に笑うその姿が痛々しくて、何度も手を差し伸べようとしては、ハンにその手を掴まれた。
――ここはあいつの踏ん張りどころだ。俺達の息子を信じろ。
息子をよく理解する父親。
ふたりそっくりに口が悪いけれど、互いの力量を認め合う親子。
ふたりでわかり合える世界には、母親は必要とされていなかった。
それを理解したふりをして今まで見守っていたけれど、ハンが不在の今……、ただじっと息子が苦しいと泣く声を放置することは出来なかった。
繋がる血が、肉を切り裂きそうなほどの痛みを伝達してくる。