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吼える月
第7章 帰還
消え入りそうな不穏な影を息子から感じればこそ、サクが耐えがたい状況に巻き込まれていることを察し、そして毅然として使用人達に言った。
「ここは私に任せてちょうだい。なにがあっても、なにが聞こえても……誰にも言わないで。心の中だけに秘めていなさい。いいわね」
そしてサラは浴室に向かい、彼女は見る。
サクの上着を纏って目を瞑るユウナを片手で抱きしめながら、悲痛に翳る面差しを向けて嗚咽を漏らし……姫の白銀の髪を黒く染めている息子の姿を。
それだけで、わかった気がした。
姫はまた、サクからすり抜けたのだということに。
……体はあれほど密着するほど近くになるというのに、またサクは姫に置いて行かれたのだ。婚儀同様、もしくはそれ以上……、彼の手の届かぬ遠いところに。
……どれだけ、心に傷を負うのだろう。
あとどれくらいの時間で、サクは姫を忘れて前を向けるのだろう。
だからせめて……姫と同じ顔をした、サクに一途な少女……ユマと結ばれて欲しいと思った。サクが姫以外に笑顔を見せる少女であれば、いつかサクの傷も癒えるだろうと。
だがサクはそれに頷かなかった。
姫を忘れようと努力していることを知っている。そのために色街に走っていることも、ハンとそれを知りながらあえて黙っていた。
サクが失恋を乗り越え、自分の幸せを見つけようとする日を待っていた。
だが1年経っても、サクには生彩はない。
素行は落ち着いてきたが、目は虚ろなまま。
そんなサクが浴室で姫に向けていた表情を見れば、親としては……その恋をどうしても実らせてやりたくなる。
どれほど息子が姫のことを愛しているのか、姫に言いたくなる。
だがきっとそれは、お節介なのだ。
サクはそんなことを望んではいまい。