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吼える月
第33章 出芽
砂漠に埋まっていた、石の"なにか"。
ユエに頼まれ、蠍が大きな鋏を壁に振り下ろす。
当初衝撃に砂が雪崩れてくると思われたその部分は、隠蔽されている石の壁がびくともはなかったため、前にある土状の壁だけで剥がれ落ちた。
なにひとつ被害を出すことなく、隠されていたものは次第にその姿を現していく。
それは明らかなる、石壁で覆われた建造物。
かなり高い位置から石肌は見える。
そしてシバが上った、庇のような部分の下にあったのは石の扉だった。
「確かに緋陵は岩石の国だから、石細工はお手の物だろうけどさ。なんで……」
テオンはその石に刻まれている模様を見た。
「朱雀の模様だね……」
鳥が飛んでいるような模様は、朱雀を意味しているのだとテオンにはすぐにわかった。
テオンは建築の知識はなく、この石で作られたものがどれくらい前に作られたのかはわからないが、砂漠になってから作られたものと考えるにしては、石の表面が古ぼけているように思えた。
「少なくとも数ヶ月前に出来たような新しいものではないね」
「砂漠化する前に、緋陵の民が朱雀に関係するものを、地下に建てたと?」
「たぶんね。僕達が見た壁の表面は確かに砂だったけど、この建物の石の表面に付着していたのは土だ。つまり実際は建物を隠していたのは砂の壁ではなく、土なんだ。だとしたら、ここの表面に砂がついていたなら、やはり砂漠化する前にこの場所一帯は、既に人為的に作られていたと言った方が自然だね。
ただ緋陵の砂漠がどれだけ深く侵蝕しているのか僕にはわからない。元々深い地下に作られていたのか、蒼陵のように地盤の変化があって、地上にあったものが沈んだのか。砂は沈みやすいしね」
シバが腕組をして呟いた。
「朱雀の模様、土に隠匿された建物……。これが朱雀殿とかは?」
「いや、たぶん朱雀殿は赤い。四国の祠官の館は、色がついているものだと書物にもあった。だとしたら。普通の石灰の色をしている石で作られたここは、大きさもどれほどのものか見当もつかないけど、朱雀殿ではないだろう。違うなにか目的があるはずだ」
テオンは石肌を触りながら、目を細めて言う。
「もしかして緋陵も、蒼陵のように"来るべき刻"に備えて、とか?」