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吼える月
第33章 出芽
「だけど朱雀の祠官は元々力がないというのなら、後者の可能性が高い」
そして一気にその目が細められる。
「……あったよ、恐らく蠍が言っていた文字。……ユエ、ここだったか、蠍に聞いて」
「ここだって。この建物に記憶があるみたいだよ」
「了解。皆わかる? 文字があるの」
シバもユエも熊鷹も、テオンが指さすそこを見る。
一見細やかな模様に見えるが、それは不規則な記号のようなものが連なる、たくさんの文字があった。
「これは神獣文字だ」
言ってから、テオンは舌打ちする。
「だけどこれは、普通の神獣文字じゃない。僕が知らない文字も混ざっているから、朱雀独特の裏神獣文字だと思う」
「裏? そんなものがあるのか」
「うん。神獣文字はそのままだと、読めるか読めないかのただの文字だ。だけど神獣の力を持つ各国の祠官や武神将は、ふたりが協力することで、神獣文字で描かれたことに対して、効力を持たすことが出来る」
「だったら、神獣の力を封じていると書かれているのか?」
「神獣文字が多すぎるんだよ、単純にそれだけだと限らない。むしろ、隠されたこの建物に描かれているということは、この建物に対してなにかがなされていると思うんだ」
「……怪しいな。祠官と武神将が隠したいもの、か」
「たぶん、この文字になされた力が符陣に力を注いでいるはずだ。この文字の意味を解いて、それが示すことをなんとかしなければ、符陣は消えないと思う」
「それはオレだけの問題ということか」
「いいや、違うと思うよ。これだけ大がかりに隠しているのなら、神獣の力を持たない輩からも警戒しないといけないし」
「だったら、やはり文字を読んでみないことには始まらないか。テオン、お前は読めるのか?」
「朱雀独特の文法が介入している上に、神獣の力がなければ封じられている真の意味は解せないと思う。だから神獣の力を持たない僕は……」
「んしょ、んしょ……」
謎の声にテオンが横を見れば、座り込んだユエが冊子を見ながら、砂の上に、指でなにやら描いている。
「なにしてるの?」
「ええと、朱雀の神獣文字の変換表!」