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吼える月
第35章 希求
◇◇◇
ユウナの片耳から揺れる、白い牙の耳飾り。
「こんのぉぉ、負けないわよぉぉっ!!」
ユウナが身を翻して白骨が振り下ろす剣をかわす度に、耳飾りが揺れた。
ユウナが投げる骨に向けられる石扉の赤光の攻撃と、白骨がユウナに向ける攻撃に、ユウナは内心怯えながら、ふたつの攻撃を相殺する方法を見つけた。
つまりユウナが囮となって骸骨を扉の前に集め、寸前でユウナは身を翻し、赤光で白骨兵士を倒す方法だ。
「やったぁ!」
極度に研ぎ澄まされた精神を維持しながら、ユウナがこの方法を成功させているのは、ひとえに昔ハンに培われた鍛錬のおかげだ。
どんなに身体が鈍っていても、ハンは窮地を生き延びるだけのものをユウナにも授けていた。
ハンが傍にいてくれている――。
そして耳で揺れる耳飾りも、なにか……今は動かないイタチが傍で励ましてくれているような不思議な感覚がして、ハンと玄武に守られているような気がするユウナは、勇気を与えられたように思わずにはいられなかった。
ひとりではないと思う限り、恐怖が薄れていくのだ。
白骨の兵士に対して。
「えい、えい。骨、あっち行け!!」
餓鬼の国から逃げ延び、さらに蒼陵でも餓鬼が現われ、緋陵では今度は骨になりながら、死者が生者を襲う図は、どんな姿になっても慣れることはなく。
中途半端な肉がついているゆえに餓鬼の外貌が怖かったが、その肉がついていなければいないでこの世のものとは思えぬ姿に内心恐怖していた。
それでもやりたいのだ。
サクは自分よりもっと大変なことをしようとしているのならば、自分の環境は全然可愛いものだと。
サクを守れるのは自分だけだと。
……だが、ユウナは姫育ちであり、サクはさすがは武神将になったほどの武官。
ユウナの手が回らない攻撃に対し、それがサクでもユウナでも、目を瞑ったままのサクの身体が動き、瞬時に白骨は地に散乱している。