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吼える月
第36章 幻惑
「テオンちゃんは、ヨンガちゃんが生きていると言いたいの? それともヨンガちゃんの屍という意味?」
鋭いユエの言葉に、シバが口元に笑みを浮かべて、テオンに代わって言う。
「ユエ。テオンが言っているのは……生きているという意味だ」
「ははは。なんと未来の祠官は、我とお主と同じ結論に至ったのか」
「……だからさ、突然ふたりで喋らないでよ、シバの姿で」
「きゃはははは! ユエもテオンちゃんとシバちゃんと青龍ちゃんと同じことを思ってた!」
ぴ、ぴぇぇぇぇ!
周りを見渡した熊鷹も片羽を上げて、自分もそう思っていたのだと言わんばかりに、誇らしげに鳴く。
「誰が後付け意見なのかは、探らないけどさ」
熊鷹がびくりと震え、ユエは妙に笑い続けている。
「……恐らくヨンガは生きている。それが鏡の呪いのおかげなのかはわからないけれど」
「ふむ。もしや鏡呪だけではなく、血呪も重ねているのやもしれぬ」
「ケツジュってなんだよ」
「血の呪い。そのヨンガとやらは、朱雀の力を強く得るための〝憤怒〟を強大にするために、自分と近しい血を持つものを生け贄にして祈りを捧げる……血呪を施したのやも……」
途端にテオンが言う。
「それ、ヨンガが狂ってイーツェー家を惨殺したという奴に繋がるんじゃないかな。つまりヨンガは家族を犠牲にしてまで嘆願したいものがあり、公に死んだことにされていたということは、その嘆願に国の長である祠官も、一枚噛んでいるんだろう」
それは、朱雀の祠官と武神将の共謀説だった。
祠官に力がなくとも、たとえばヨンガの死を伏せて棺を作るなど、対外的な使い道だってある。
「祠官も仲間だったから、ヨンガが表舞台に消えても、裏で生かすことが出来る、この……棺という名の家を与え、生きているヨンガと一緒に後からじっくりと、この棺に朱雀の力の罠を仕掛けられたんだと思う」
テオンが一番ひっかかっていたのは、死んだはずのヨンガが死した後にまで、術を持続させられるかというものだった。それを嘆願に望んだにしては、派手すぎる。
偽りの青龍殿でサクと共に惑わされたあの術をかけた主は、ちゃんと生きていたから発動したのだとすれば、この朱雀の罠を仕掛けたのも生きているのかもしれない……その前提で今までわかったことを考えると、妙にすとんと腑に落ちるものがあったのだ。