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吼える月
第36章 幻惑
「輝硬石とやらは我ら神獣の力で出来たもの。さらには朱雀に限っては〝憤怒〟の神獣であり、朱雀の嘆願も怒りを源泉にしておる。呪詛はひとが作りだした怒りや恨みを形式化したものゆえ、朱雀がその怒りを実として受け入れたのならば、朱雀の輝硬石はその憤怒を逃がさずに逆に強めるであろうぞ」
途端に歩きながら、頭を片手で押えたテオンは、ぼそぼそと言った。
「あ……なんか見えてきた気がする」
「どうしたのテオンちゃん。今まで景色が見えなかったの?」
「視界のことじゃないよ。ヨンガがした朱雀の嘆願さ。ヨンガは――」
そこで言葉を切ったのは、シバが立ち止まったからだ。
「シバ、どうしたの?」
「テオン。……やられた」
「え?」
「どこまでも道は尽きることがない。ここは……無限回廊だ。いや、夢幻回廊と言った方が正しいのか。閉じ込められたようだ」
後ろにも前にも景色がなく、どこまでも一本道が続いている。
テオンはサクと共に入り込んだ、偽りの青龍殿を思い出す。
何度も周回しても、また入り口に戻ったあれは……術のせいだった。
そう、父である祠官とジウの。
一度見知ったために、テオンは取り乱したりしなかった。
もっとも、一度目に熱を出していなければ、ひとり走り回ってサクの前で罠にかかって死んでいたかもしれないけれど。
「青龍……。これは朱雀がしたもの?」
「……否。同胞の〝意志〟を感じぬ。これはひとが作ったもの」
ラクダは石の建物を、ヨンガの石の棺だと言った。
なぜこの石棺の中に、こんな罠があるのか。
誰がこんな罠を仕掛けたのか。
ここが、ヨンガの棺であるというのなら、なぜここまで広いのか。
テオンの頭の中が忙しく今までの事象が駆け回り、そしてひとつの仮定を導き出す。
「中枢に行こう」
テオンは厳しい目をして言った。
「この奥にいる……ヨンガに会いに」