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吼える月
第36章 幻惑
テオンは目を細めた。
延々と夢幻に続く回廊は、同じだと思うから取り込まれる。
そして取り込まれたことを悟らせないような、周到な出来具合……それが、偽青龍殿にかけられた術だった。
蒼陵の祠官と武神将の術が他国に劣るとは思わない。
なによりジウは、サクの父ハンに敵わずとも、倭陵で二番目の強さを誇る武神将なのだ。
ならばそれと似た術を、朱雀の祠官や武神将もかけられるのだとしたら、青龍の青い輝硬石で作られた青龍殿で見たあの術は、テオンの思考の基軸となる。
テオンは鏡の特性を考える。
この空間自体、鏡の法則に従って、前も後ろも同じ光景なのだとしたら。
「シバ! 前に向かって青龍刀を投げてみて! 青龍、刀にちょっぴり力を貸して!」
シバは二人分の返事をしながら、うっすらと深い青色を放つ青龍刀を前方に投げた。
すると――。
「なぜ後ろから音が?」
シバは訝りながら、後方を見た。
すると後方の先に、前方に投げたはずの青く光る刀がなぜか落ちている。
「やっぱりね。〝合わせ鏡〟だよ」
テオンは言い切った。
「本来合わせ鏡は、たとえば手鏡を持って、自分の後ろの鏡に映る自分の背後を、手鏡で見るやり方だけれど、これは〝合わせる〟意味合いがちょっと違う。正面の景色を鏡で向かい合わせれば、鏡の中に反転した景色が映り込むだろう? それと同じ原理じゃないのかな」
「でもテオンちゃん。ユエ達、鏡にごつんこしなかったよ?」
「鏡……と言っても、もしかすれば鏡の役目を果たす、投影かもしれない。幻影と言ってもいい。代わり映えのない風景を見せられている」
「だがテオン。この前方の道が虚構の投影だとしたらだ、後ろに道はあったと言うことになるぞ。オレ達は入り口という端からまっすぐ入ったはずだ」
「シバの意見はもっともだ。だけどさ、僕達がいるところだけほんのり明るくて遠くは暗闇だ。しかもまっすぐ歩いていたという根拠はなんだ、シバ?」
「そりゃあ……」
シバは脇の石柱を見上げると、青龍の言葉に切り替わる。
「ふむ。未来の祠官が言いたいのは、この石柱はどの角度からも筒状。まっすぐに歩いている証拠にはならないということだな」