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吼える月
第36章 幻惑
「ふぇぇぇ、ユエ……落っこちなくてよかった」
宙にぷらぷらと浮かびながら、ユエがしみじみとそう言う。
「いやいや、ユエ。問題はそこじゃない。なんで砂漠の下に迷路があって、溶岩があるんだよ!」
「え、テオンちゃん。この溶岩は特殊なんだよ、きっと。だからイタチちゃんを助けられるために迷路は必要なんだよ、きっと。きゃはははは」
「それ、答えになっていないから!」
きゃははははと笑うユエは、熊鷹が動いてテオンの横にぽとんと落とした。
熊鷹が頭をぶつけたのは天井のようだ。
それは、煌々と燃え盛る溶岩を映した――大きな赤い鏡だった。
「これは朱雀の輝硬石ぞ」
青龍がそう言った。
「なんだか不気味だね。さてさて、入って来た口がなくなってしまった以上、次に進むのは安全な道を長々と歩いて右側の奥の出入り口を目指すか、それとも溶岩の上にある巨大迷路を進んで左側の出入り口を進むかだけれど。はい、多数決、挙手してね。左の迷路がいいひと! ユエだけ? だったら右側で決まり」
「テオンちゃん、迷路行こうよ~」
「駄目、多数決! わざわざいつ崩れるのかもわからない、あんな危険な迷路を行かないですむならその方が断然いいよ」
「でもさ、簡単にいけるのは後が怖いよ?」
「あっはっは。もう大丈夫だって。はい、じゃあ皆さん、右側に進みます!」
「ちぇ~」
渋々とユエは従い、一同は揃って曲線状の道を歩いて、奥の出入り口に向かう。
……その時、なぜ危険度がこうも違うふたつの選択肢が用意されていたのか、裏を考えてみればよかったのだ。
――でもさ、簡単にいけるのは後が怖いよ?
ここは朱雀の力が絡んだ、呪いの罠が蔓延る石棺。
楽に進める道に、どんなものが待ち受けているのかを――。