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吼える月
第36章 幻惑
◇◇◇
サクとユウナとラクダが進んでいた細い道は、複雑に入り組んでいた。
道が途切れることもあるこの道はまるで迷路のように錯綜しているのだが、この手の脱出方法はハンから鍛えられていたサクにとっては、正解の道が本能的に浮かび上がって見えている。
そのため、回り道をせずともひたすら歩くことが出来ているのだが、問題はこの道がどこに続いているか、だった。
見渡す限り、どこにも出入り口らしきものは見当たらず、果てなく迷路のような入り組んだ道が続いているだけだ。
それでも、基本はお気楽な黒陵組。
後ろにもう道がないのなら、前に進んでいれば、なにか突破口はあるはずだと歩いている。
「おっと、姫様。大丈夫ですか?」
「大丈夫よ、はぁはぁ」
均衡を失ったユウナは、上体をぐらぐらさせながら、ぶんぶんと両腕をそれぞれ回し、なんとか均衡を保つ。
最初はそこまで道が細いわけでもなかった。ユウナも普通に歩けたのだが、奥に進んで行くに従って、道はユウナのつま先くらいの細さとなり、ところどころ皹が入っていたりして、時折からからと不穏な音をたてて、道の破片が溶岩に消えていく。
踏むところを間違ったり、その場に長く留まりすぎれば、途端に道ごと溶岩の中に落下してしまうだろう。しかも、同じ道を歩む仲間を連れて。
だからこそユウナは必要以上に慎重に歩いているために、身体が強張りすぎて、中々前に歩いていけない。歩いたらこうして落ちそうになり、なんとか頑張って姿勢を保つことに苦心する。
「……姫様、俺抱えますから、無理しなくてもいいですよ?」
サクは善意でそう言っているのだが、サクを睨み付けるように見たユウナは、その愛らしい唇を小さく尖らせて、差し出された手を拒否する。
「あたしにだって、ひとりで出来るわ!」
サクは――ユウナを見ながら、後ろ向きで歩いているのだ。
しかも一度も狼狽や躊躇することなく、いつものように背筋を正してすたすたと、まるで後ろに目でもついているのかと思うほどに。