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吼える月
第36章 幻惑
鬼のような形相をした、目を充血させたラクダは限界突破して、細い道を馬より早く、走る。走る。……走る。
「サク、ラックーちゃんが凄い勢いでこっちに来るわ」
「さすがは朱雀だ。この感じだったらラックーは止まれないな。じゃあ姫様、ラックーに乗りますよ」
「え、乗る!?」
サクはユウナを片手で抱くようにするとその場で飛び跳ね、ストンとラクダの背中に飛び乗った。
サクの前でサクに後ろから包まれているような格好のユウナは、気恥ずかしさを感じつつも、顔の肉がぶるぶると震えるほどの速度で走るラクダに、振り落とされないようにと、イタチを片手で押さえながら神経を集中させた。
「お~、ラックー本能で正しい道を進んでいる。やれば出来るラクダだな」
まるで馬を扱うかのようにその身体をぽんぽんと叩いて、出来るラクダを褒め称えたのだが、如何せん、ラクダは切迫感に正常心を失っていた。
『ばへぇぇぇぇ! ばへぇぇぇぇぇ!』
言葉が通じない状況にあることを察知したサクは、顔を険しくさせた。
「やべぇな、この暴れラクダを抑えないと、命尽きるまで走ってそうだぞ、ラックー」
「命尽きるまでって!! ラックーちゃん、落ち着いて。大分引き離したから、速度を落として大丈夫よ?」
『ばへぇぇぇぇ! ばへぇぇぇぇぇ!』
「ラックー。お前朱雀なんだろ? そのままじゃ本当のラクダになっちまうぞ? ラックー、鼻の穴がでかいラクダのままでいいのか!?」
しかしふたりの諭しはラクダの耳に届いていない。