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吼える月
第36章 幻惑
 

 なにせ他国の神獣はイタチとラクダだ。
 それよりは一番厳格でまともだと思っていたが、神獣は元々は砕けた性質もあるのか。……それとも、同胞の姿に感化されたのか。

「凶々しい気が行く手を阻んでいる。しかも悪いことに複数同時に動くために、空間転移が可能になる。これを同時に抑えて浄化することが出来れば、元の位置に戻ることはあるまいに」

「青龍、浄化出来るの?」

「出来ないこともないが、ここは朱雀の縄張り。ここに入る時はやむを得なかったが、この中で我が力を放つと、他の罠も発動するやもしれぬ」

「な、なんでさ!」

「神獣の力は特性はあるが、基本は女神ジョウガの力でもあり、根底は同じなのだ。聖なる気の塊……それをここで打ち込むことにより、均衡を得ていた朱雀の力に満ちた空間に、我の力を罠が誤認してどう作用するかわからぬ」

「だけど方法がないんでしょう? それとも……ワシがひとりひとり安全なところまで運ぶ? ……むしろそれいいよね、ワシにあの出入り口まで運んで貰うのは」

 テオンの提案に、熊鷹も任せろと言わんばかりに胸を張って鳴く。
 するとユエが、足元の小石を拾い、空高く放り投げると、どこからか矢のようなものが一斉に飛んできて、小石に突き刺さった。

「うん。ワシちゃんが飛んだ途端、矢が刺ささるね。焚き火にしたら焼き鳥の出来上がり~。きゃははははは!!」

 ぴ、ぴぇぇぇぇ……。

 無邪気に恐ろしいことを言うユエに、熊鷹は一歩退いた。

「空が駄目だとしたら、一斉浄化しないといけないわけだけれど、青龍の力を使ったら神獣の力として誤認されて、どう二次被害が出来るかわからない。だけどそれをなんとかしていかない限り、前に進む方法は……」

「他にあるよ」

 ユエが言った。

「邪気を抑えるくらいなら、一番簡単な方法で」
 
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