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吼える月
第36章 幻惑
 
 
 青龍が出るまでもなく、シバが当然のように……だが疑問系で言うと、テオンの足がぴたりと止まり、テオンは何度か目を瞬かせた。

「そうだよね。そうだよ、頭脳派の僕が肉体派のシバに言われないと気づかなかったなんて」

「きゃははははは、テオンちゃんのお馬鹿さん」

 ぴぇぇぇぇぇ~。

 鳥にまで笑われたテオンは、面白くないような顔でシバに向く。

「だったら、行こう」

 テオンは不本意ながらもシバの肩に担ぎ上げられ、シバは二度刃物を飛んで跨ぐつもりらしい。

「くっそ~。高い背と長い足が僕にもあれば……」

「いい加減諦めろ」

 シバがにやりと笑う。

「くっそ~」

 悔しさのあまりテオンがシバの肩の上でじたばたとした。
 そのまま、まずはシバが飛出し、猛速度の円環の上に乗り、刃物を跨いで別の円環に飛び移った……のだが、気づけばまた、猛速度の円環の上にいて、また刃物を飛び越える羽目になる。

 何度やっても、同じ円環から飛び移れない。
 出来るのは、元いた円環に戻ることだけだ。

「これは強制的に時空間を移動させられておる」

 青龍の声でシバが言う。

「抜けるには!?」

「……ひと以外を贄に」

 皆は一斉に熊鷹を見た。

 ぴ、ぴぇぇぇぇぇ~?

 熊鷹は嫌な予感を感じたのか後退る。

「冗談だ。そんなものはあらぬ」

 テオンは顔を引き攣らせながら思う。
 我が国の神獣も冗談を言うのかと。
 
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