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吼える月
第36章 幻惑
「ユエはね……」
ユエの返答に、一同はごくりと唾を飲み込んで耳を傾けた。
「ユエなんだよー、きゃははははは!」
それが愉快だとユエは大笑い。
「すごぉぉい、ユエ、女神ジョウガと間違えられるなんて! 早くサクちゃんに自慢したい! きゃははははは」
テオンは、瞠目したまま固まるシバこと青龍に声をかけた。
「……青龍、間違えたな。大体、ユエだよ? あの、きゃははのユエだよ!? ジョウガって、きゃはははは笑うの?」
「いや……その……」
青龍の言い淀みは、ジョウガは笑わないということなのだろうとテオンは察する。それにとても書物にしか登場しない女神ジョウガを知る青龍が語るだけで、随分とジョウガが生々しい存在に思えてしまう。
倭陵の民にとって、敬うべきは各地の神獣であり、ジョウガではない。
その不思議な敬意は、どこから生じたものなのだろう。
神獣に向かう畏怖が間違ったものであるのなら、神獣やジョウガ自身が訂正するはずだと思えば、これはジョウガも認める正しい姿なのだろう。
「しかし、あのジョウガの笛を吹けるのはジョウガだけなのだ。ジョウガではないのなら、なぜにあの娘は笛を吹けるのだ?」
テオンがシバと共にユエを見ると、ユエは目をぱちくりさせて言う。
「ユエにお口があるから?」
途端青龍は、微妙な顔をした。
「確かにそうだ。ふむ、間違ったことは言ってはおらぬ」
「真面目に受けて返さなくてもいいんだよ! 確かにユエは不思議なところはあるけど、基本きゃははははで、きゃははははだから、それでいいじゃないか」
「ふ、ふむ……」
青龍はわかったのかわからなかったのか、なんとも微妙な表情をした。