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吼える月
第36章 幻惑
最初からわかってはいたのだ。
サクとユウナは恋仲だと。
遅かれ早かれ、ふたりは身体を重ね合うことも。
だからそれらについては、深く考えないで来た。それどころか単純馬鹿の仕切りが悪すぎて、同じ男として嘆いてもいたのだ。
だけど――。
『姫様、愛してます』
『嬉しい……。サク、あたしも好きなの……』
歓喜に抱擁しあうふたりに、シバの姿など目に入らない。
ふたりが心を通い合わせた瞬間、シバの中でなにかが瓦解した。
どくん。
『……姫様のすべてを、俺に下さい。姫様を……俺の女にしたいんです』
『うん、あたしを……サクだけのものにして』
どくん。
艶めくユウナの愛らしい唇に、身を屈めるようにしてサクは己の唇を重ね、ユウナの舌を絡めさせているようだ。
どくん。
恍惚としたような表情を見せながら愛し合う男の顔と女の顔が、シバの心臓をぐわりと鷲掴んで、血肉ごと抉っているかのように思えた。
どくん。
痛みに脈打っている。
血が沸騰しそうだ。
怒りなのか悲しみなのかわからない、迸るような激情に、シバは叫ぶ。
「やめろ、やめるんだっ!!」
どんなに叫んでも、ふたりには届かない。
『ん……んぅ……サ、ク……』
くちゅくちゅという水音に混じって、ユウナから甘い声が聞こえる。
『もっと……俺の舌に……んん……ひめ、さ、ま……。ん、ぁ……』
サクからも喘いでいるような悩ましい声が漏れ、彼の手が動き、衣擦れの音が響いた。
目の前でサクは、ユウナの上衣と下着を剥ぎ、ユウナの腰に片手を巻き付かせるようにして抱えつつ、ぴんと上を向く豊かな胸に、頭を振りながら音をたてて吸い付いた。
『ああああっ』
ユウナは喜びの声を上げ、頼りなげに突き出した手を宙に彷徨わせれば、サクはその手に己の指を絡ませて、ぎゅっと握りながら、舌と唇とで硬く勃ちあがった先端を愛する。
『姫様、可愛い……。ああ、すげぇ甘くて美味しい、んんっ』
『ああんっ、サク、サクっ、名前で……呼んで、その言葉、嫌っ』
『ああ、わかった。……ユウナ』
サクの艶めいた声が聞こえた。
シバはぎりぎりと歯軋りをする。
悔しかった。
サクに唯一誇れるのが、彼女を名前で呼べたことだったのに。