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吼える月
第36章 幻惑
 
 


「ん……」

 ぴちょん、ぴちょん……。

 音楽を奏でるかのような軽快で繊細な音を聞きながら、サクが目覚めたのは眩しい光の中だった。

「気づいた、サク?」

 自分はユウナに膝枕をされていると知ったサクが上体を起こすが、ユウナとの手は握られたままだということに安堵した。

「ここは……?」

 見渡せば砂の洞穴だが、後ろには大きな水溜りが出来ていた。
 そして甘い香りを放つ、赤い果実が実った高い木がある。

「ラックーちゃんの言う通りの世界だったわね。さすがは朱雀っていうところかしら。今ラックーちゃんは、この木の向こうで見張りというか安全を確認に行っているわ」

 思わず目を細めてしまうほどの目映い光は、天井の小さな穴から差し込んでいる。

「この光は、お日様の光かしら」

 ユウナが嘆息をついた。

「そうだとしたら、いつの間にあたし達は昇って来たんだろう」

「昇ってはいなかったはずなんですけどね」

 サクの中では、どこまでも地下世界を沈むことはあっても上昇はしていなかった。

「じゃあ、あの光はなんだというのかしら」

 あんなに高い場所の穴は、サクが跳ねたところで向こう側を確認することは出来ない。

「ワシがいればよかったな」 

 あの熊鷹のように、空を飛べる手段がなければ。

「ふふふ。今頃ワシちゃんも、頑張っているわね。さて、これからどうしよう、サク」

「そうですね……」

 そしてサクは、目を細めた。

 光と自然に包まれた中で、ユウナがこんなに安らいだ微笑みを見せるのは、久しぶりだとサクは思うのだ。

 ……ふたりきりなら余計に、封じた想いが溢れ出てしまう。

 こんな風にずっと平和なまま、ユウナと生きることが出来たら。

 否、生きたい。
 ユウナとふたり、こうした未来を手に入れたい。
 
 この女神のような姫が欲しくてたまらない。
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