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吼える月
第36章 幻惑
「リュカ……好き」
やめろ、やめてくれ。
言葉が口から出てこない。
「リュカが好きでたまらないの」
ユウナから発せられた言葉に顔を歪めたサクは、己の胸をどんと拳で叩く。
どん、どん。
何度も何度も。
自分はここにいるのだと、自己主張をしているのに、ユウナはサクを見ない。ただひたすらに、リュカに熱情を向けるのだ。
そう、それはサクが欲しかった眼差しで。
「あたしを……連れていって。リュカのお嫁さんにして?」
サクの胸を叩く手が止まったのは、体が動かなくなったからだった。
あの忌まわしき赤き月夜のように、体も動けず、声も出ない。
あれから、強くなったのではなかったのか。
父を母を犠牲にして、ただひたすらユウナを守るためだけに駆け抜けてきた自分は、今も尚、あの日のように無力で。
ただ、心の中で叫ぶしか出来なくて。
「でもきみは、サクが好きなんじゃ?」
ユウナは笑う。
残忍な笑みを、今までその存在を無視していたサクに向けて。
「彼はただの幼馴染みよ。サクの重い愛情に、あたしは応えられない。あたしの心は――リュカだけだから。永遠に……」
淡水が拡がり、サクの体を濡らして侵蝕する。
ユウナやリュカの髪の色のように、輝かんばかりに煌めいていた透明な水は、いつしか汚泥のように黒く澱み、たくさんの穢れた触手を伸ばして、幾重にもサクに絡みついていく。
「サクは、いらない」
涙を零すサクの目を塞ぐように、最後の触手が巻き付いた。
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更新をお待ち下さっていた方々へ
お待たせしてしまい、本当に申し訳ありません。
完結に向けて書いていきたいですが、これから別物語の書籍化作業が入ります。佳境時には集中するために少し休みを頂くことがあるかもしれません。
私の心身を心配下さる優しい読者様が多いので、そういうこともあることだけ、先に告知させて下さい。(こちらはエリュシオンでも書かせて頂きました)
色々とご迷惑をおかけしてすみませんが、頑張りますので、どうぞ今後ともよろしくお願いします。
奏多 拝