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吼える月
第36章 幻惑
「ユウナ?」
口づけあえば身も心も蕩け、この愛は本物だとわかるのに。
――ナンジガノゾムセカイダ。イツマデモイタイダロウ?
「ユウナ、なにを考えている?」
どこからどう見てもサクだ。
だけど、ひとつになることを拒む自分がいる。
――エイエンナルトキヲヤロウ。ウタガイヲナクスノダ。
サクが好きだから、サクに抱かれてひとつになりたいのに。
心の奥で、やめろと誰かが泣いているのが見えた。
――ナニモミルナ、ナニモキクナ。
〝ヤメロォォォ、ヒメサマァァァァ〟
サクだ。
あの禍々しき赤き月夜に、四肢を折られたサクだ。
「ユウナ、俺のことが好きだよな?」
……しかし、そのサクが目の前にいるサクに繋がらない。
――メノマエノ、ナンジガモトメルソンザイダケヲシンジヨ。
「俺もずっと昔から好きだ。だから、ひとつになろう」
〝これは……意地悪ではありません。……しては駄目なんです〟
違う。
あたしのサクは。
〝……俺の願願掛けなんです。唇は、姫様の心が俺に向いた時に。その時までは、しません。……どんなに、したくてたまらなくても……〟
あたしのために命を賭け、あたしの心を望んだ彼は、口づけに願をかけるとそう言った。