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吼える月
第36章 幻惑

「砂漠が消えないというのは、ここは現実なの!? あたしひとりだけ外に来てしまったの!?」
サクにどうすれば合流出来るのかわからない。
サクだけではない、ラクダやテオンやシバやユエ達が、この砂漠のどこにいるのかすらわからないのだ。
しかも出口なきこの砂漠で、自分はどうなってしまうのだろう。
ユウナは途方に暮れた思いで、がくりと両膝をつく。
「どうしよう……。こんなことだったら、サクのそっくりさんになんとかして貰えばよかったわ」
そしてユウナはそこで初めて気づく。
「あれ? 水色の光って……イタ公ちゃんの力? 緋陵でイタ公ちゃんがまた助けてくれたの? じゃあ、お目覚め!?」
首に、白イタチがいなかった。
「ええええ!? イタ公ちゃんも幻だったわけ?」
悲しくて寂しくて、ほろりと涙が頬に伝い落ちる。
「そんな、イタ公ちゃん……」
「そんなに我がいないのは寂しいか」
「寂しいどころの話ではないわ。イタ公ちゃんはずっとあたしの首元にいた、一心同体……って、え?」
突如した声に振り向けば、男が立っていた。
正確にはただの男ではない。
黒く光る見事な鎧を身につけ、蛇が絡まる大刀を手にした長身の男だ。
腰まである艶やかな黒髪を靡かせ神気を纏った、男とも女とも判別しがたいその美貌の人物。
ゲイなど足元にも及ばない、究極の美貌。
「ええと、どちら様?」
まるで太陽を見ているかのような目映さだ。
目をちかちかさせながら尋ねるユウナに、男は美しい笑みを見せて言った。
「この姿では初めてだな、姫よ。……我が名は玄武なり」
――と。

