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吼える月
第36章 幻惑
眩しい、力のぶつかり合い。
目を細めてそれを見つめるユウナの目には、紅蓮の炎で出来た檻の柵のようなものを、水色の光が圧している様を見た。
そして轟音――。
「さあ、ここから小僧の元へ戻れるゆえに」
空間に開いた穴には、薄闇の景色が映っている。
それはまるで割れた鏡の破片に別の景色が映ったかのような、幻想的で不思議な心地がするユウナだったが、ふと玄武に尋ねる。
「一緒に、行かれますよね?」
しかし玄武は、緩やかに頭を横に振る。
「この我はここで消える。ここから出ればそなたひとりで、小僧を助けよ」
「で、でも……サクに会って下さいませんか。サクは本当にイタ公ちゃんを心配していて……」
「小僧の心も姫の心も、儀式をして堅く結ばれた我の心に、ちゃんと届いておる。だからこそ、その心に応えたく、姫に託すのだ」
玄武は携えている刀を、ユウナに渡す。
「我の玄武刀で、小僧達のしがらみを解いてやれ」
「あ、あたしがですか!?」
どう見ても大きくて重そうだ。
これなら飾りがついている分、シバの青龍刀の方が軽く見える。
……若干、であるが。
「大丈夫。我が選びし姫なら」
「はぁ……」
持ってみたが、両手でもやはり重い。
玄武はなにをもって、大丈夫と言ったのだろうか。
彼の目には、自分が筋骨隆々とした女人に見えているのだろうか。
僅かに恨みがましい眼差しをしたユウナであったが、
「そうだ。我が選びし未来の祠官が、我の武神将を助けに行くのだ」
……単純にもユウナは、その言葉にて腹を括る。
これは自分にしか出来ない使命だと。
重いけれど仕方がない。
本当に重くて、腕の筋肉が悲鳴を上げているけれど。
――根性だ。