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吼える月
第36章 幻惑
己の身だって危険だろうに、自分達を見捨てなかった慈愛深い神獣。
玄武が守る黒陵に生まれ育ったことを誇りに思い、ユウナは流れていた涙を拭い、気持ちを新たにする。
「さあ、今度はあたしがサクを助けに行くわよ。負けないんだから!」
玄武は我が身を省みず、サク達を助けろと刀を託したのなら、自分はそれに応えたい。
出来ないのではなく、やり遂げねばならない。
「よいしょ、よいしょ……ふぅ。よいしょ、よいしょ」
大きな刀はやはり重く、両手ですら持ち上げられない。
両手で柄を握り、刃を引き摺らせるようにして薄暗い中を歩けば、すぐに何かに躓き転んでしまう。
「きゃ……」
ユウナの手から離れた刀が、ずんと重い音をたてて地に刺さる。
なにか生温かいものの上に転んだユウナは、それがなにかペタペタと触りながら体を起こす。
「え……と」
薄闇に目が慣れてきたユウナは、その刀に顔をつけるようにしてあったのが、目も鼻も口も大きく開けて、恐怖に固まっているラクダであることに気づいた。
「まあ、ラックーちゃん!! 幸先いいわ、すぐにラックーちゃんを見つけられるなんて」
やがてラクダの目は白目を剥き、口からはぶくぶくと白い泡が溢れる。
「ちょっと、ラックーちゃん!?」
……目覚め一番、身構える間もなく、容赦なく降ってきた強大な刃物に、恐怖の度を超えたラクダは、意識を遠のかせてしまったのだった。