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吼える月
第36章 幻惑
 

『ブルル、ブルル……』

 いまだ恐怖が抜けきれないのか、ユウナに上体を支えられて起き上がったラクダは馬のような声を発する。

『我の毛……』

「大丈夫、大丈夫。申し訳程度の最後の1本が、必死に地肌にしがみついているわ」

 ……ユウナはラクダを励ますように笑顔で答えたが、その言葉には無自覚な棘があったようで、ラクダはずーんと項垂れる。

「本当にごめんなさいね、ラックーちゃん。この刀、重くて……」

『どこから持ってきたのだ。突然消えた黒陵の姫よ』

「それがどこかわからないわ。ここではないことはわかったんだけれど。そこにね、ラックーちゃん! 襟巻きから人間になったイタ公ちゃんがいたの! イタ公ちゃんがあんなに美しかったなんて!」

 ユウナは、興奮混じりに言った。

『玄武が人型に? はて……あの頑固者、そう易々と人間に人型を見せぬと思うたが……。夢でも見たのか?』

「違うわ。イタ公ちゃんだった。首のイタ公ちゃんがいなくなって、悲しくなっていたら……」

『白イタチなら、姫の首に巻き付いておるぞ?』

「え?」

 ユウナが首を触ると、そこにはふわふわとした毛並みと、温かくて細長い体がある。
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